COLUMN
コラム

沿岸帰りの夏サクラマス&バイブレーション

 アユ師が好むポイントは絶好はサクラマスポイントが多くて、ブッキングしてしまうから彼等に囲まれる前に超優良ポイントを出来るだけ多くチェックしておかなければならない。ほとんど毎日3時に起床。寝るのはいつの間にか12時を過ぎているので爺さんには超過激なハード・スケジュールなのだ。朝に本降りの雨だったるするとホッとしたりもする。

「一緒に釣りに行こうよ、教えてよ、釣らせてよ」の来客が毎日のように続き、その合間に一人で出掛けてゆっくりと釣りをするだけで、なんだか格別な釣りをしているように思えてしまう。そんな優雅に思える時がKEISONのHP用の釣りになるのだ。

夢の大ヤマメ、サクラマスが釣りたい。そんな夢を現実にしたいアングラーからの連絡が絶えない。

本流に立ち、ラインさえも見えない薄暗い中で最初のルアーにスナップを通す。ある程度自分の周りを探ってからウェーディングして行かなければ、浅い場所で夜明かししたサクラマスを追い払ってしまう。夜明け前の静寂な時に車のライトを点灯したままポイント脇まで入ったり、砂利を踏み鳴らしたらすでに論外。アスファルトの道から川原に入れば、その時点で魚へのアプローチは始まっていると考える。

サクラマスはバカじゃない。稚魚から成長して戻ってくるまでほとんどのマスが何らかの犠牲になり、母川に帰って来るのは優秀な生き残りなのだ。

 今回、最初に入ったポイントは歩いて移動するのが面倒な程、長~いトロ瀬。その一番深い部分に関わるあらゆる方向への駆け上がりを狙う。辺りは静寂でターゲットは岸よりの浅瀬で休んでいる。着水音の小さな小型のミノーをサミングで落とす。フックもぎりぎり持ち堪えればいい。

まず、53のミディアを足元周りに低速飛行で静かに落とす。流れに馴染ませたら軽くトゥイッチ、少しずつ範囲を広げて行き、そしてウェーディングだ。川幅が50mは楽にあるので、53ミディアと55トリコロールからさらに67トリコロールに替え範囲を広げる。当然下流側にも大きく広がる。その範囲まで掛け上がりが広がると思うから67に替えるが、駆け上がりの範囲が狭ければ、または狭くなって来たら55に替える。今は67のままで広範囲にダウン方向に攻める。一歩も動かず、ルアー・ローテーションだけで、ルアーだけが釣り下る。

トロ瀬だから静寂は続く。ルアーが着水時のラインスラッグを取る瞬間にスッと急速に動き、ロッドのアクションが伝えられた瞬間にガシッ!と捕まえられた。居食いだ。アタリが重い。上流側にロッドを曲げるように張ると、後は自分の首振りの激しさで勝手にフッキングしてしまう。なんなくそばまで寄せて来たが、あと3mが寄らない。マスも傍らまで来てやっと状況を把握出来たようで、驚いたように暴れる。きっと、まだ寝ていたに違いない。腹のフックだったが、ちょっと慎重にネットを沈めた。

 その後、ロッドを持ち替えた。実はKEISONに67でバイブを作ってくれと頼んだら、それは面白そうだから作ってくれと逆に言われた。取りあえずベースを送ってもらったが、さて、どうしようか?

なぜ、バイブなのかと言うと、単純に言えば釣れる。ミノーやティープダイバーが太刀打ち出来ない深み、激流の深みに、激タフになった状態に、散々ミノー、スプーンで攻めたけど納得出来ないでいる時に、また、人がどいた後に、数投で大物を引き出してくれる。

ベースはあくまでベースでプロトではないので、どう変えればいいのか、他社のバイブを集めてメーカーごとの動きを確認してみようと、バイブを7個ほど全部トラウト用にリメイクした。アルミホイルを側面に貼り、鱗模様を着け、背黒、腹橙にしてウレタンにドブ浸けし、全ての鰯カラーや謎チックな奴を「ギンクロオレンジベリー」にして扇風機で乾かす。夕食後から12時半に作業を終え、3時に起きてバリ取りとフックの装着し、3時半に家を出た。4時には川に立ち、取りあえずミノーで1本上げて、テスト用のポイントに移る。きっと底の方は垂水になっているはずの流れ込みのドン深、ミノーじゃタフ過ぎて、スプーンじゃ流されるだけ、回収時は回転してラインにダメージなんて言うポイント。太刀打ち出来ないポイントの底を探ってみよう。アップクロスで大きく投げて着水と同時に高速リトリーブ&ガンガンのトゥイッチを入れる。縦の動きとバイブのヒラヒラを組み合わせる。ルアーの重みをいつも一定にかんじているようにアクションを入れる、とにかく休まずガンガン動かす。上流も下流も一緒。バイブのトゥイッチ、この方法がいい。なんてことはない。数投で2本釣れた。バイブは瀬でも、トロでも何処でも本当は居るんじゃないかと思う時の最終チェックとして欠かせない。激渋の時にこそ本領を発揮してくれる。バイブだけが違うメーカーじゃさ、釣っても釣っても報告出来ないでしょ。だから、バイブ作るんだ。

やっばい奴をね。

 釣れた3本はすべてサクラマスだった。それも遠く津軽海峡やオホーツクに行って来た奴ではない。冬か春先に海に下って沿岸部で過ごし、遡上の弊害になる程のオーバーウェイトでなく、遡上、産卵に必要な分だけの身軽な体型で帰って来た奴だ。

近年、ダムや堰提で川が人為的に寸断されて、帰る支流を失くしたサクラマスが長距離、遡上をする必要がなくなって来た。または、海からほど近い支流の出身である為、川の遡上距離に合った体力を付けて母川に帰って来る。だから、無駄な大きさも、体力を使わなくて済むように秋が近い時期に遡上する。それが7月半ばから集中して下流、中流域で釣れる。それも春先に、河口でフレッシュランが入ると2日間くらいバタバタ釣れるのと同じように、夏を越す為の沿岸サクラマスが中流域に入って来ると2~3日バタバタ釣れ、その後、産卵の為の成熟に備えるので口を使わなくなる。そして次の雨でまた新しい群れが入って来てまた釣れる。そしてまたまた産卵の為の成熟に備えるので、釣れないサクラマスが溜まりだす。前回でも述べたように、鱗を溶かし、体内に吸収し、身体の脂肪も全て卵の発育に使う大事な時期になる。

春先に上がった奴は何処に消えたんだ?と思うくらい、上流では普通のヤマメも戻るも、サクラマスは姿を消す。この時期に起きる体の変化を、どこか安全な隠れ家で密かに過ごしている。それはタイミングのいい時に台風が来て大雨になって、一気に支流や上流を目指せるようになるまでだ。今釣れるサクラマスは今遡上している夏サクラマス。大型マスの旬は春同様に再び訪れる。

夏サクラマス。未練がましく、いつまでもサクラマスを追い求める。

 銀の鱗は密着して剥がれないけど綺麗に残っていて、背ビレ尾ビレも先が黒かった跡がある。そして、ヤマメとサクラマスの決定的な違い、海洋帰りの特徴である口の中の黒さが大部分は取れているもののまだ微粒に残っている。遡上に時間がかかっていなければ墨を舐めたように黒い。鱗の剥がれた傷跡は海で寄生虫にパラサイトされた跡である。サイズは稀に50cmクラスもいるが、40~45cmがほとんど。

サクラマスはみんなお見通しであり、環境に順応しているのである。大型サクラマスで有名な河川もダムが出来れば、遡上距離が減り、何代か先には春に出会うサクラマスが減り、小型のサクラマスが夏に遡上して来るようになる。遡上距離が短ければサクラマスも小型になる。そんなに小さいサクラマスじゃ、なんて現実逃避したって今にこのサイズしかいなくなる。今のうちに楽しんでおかなければ、またまた夢の魚になる。春のサクラマスは消え、タナバタマスと言われるようになる。ガハハ!

惇也くんの通う川の夏サクラの適水温は19~21度である。勿論この時期に中流、下流でトラウトマンに遭遇することは滅多にない。この時期に出会うトラウトマンはかなりやり込んでいる人で、手に40~50cmのサクラマスやホンマスをぶら下げて藪から出て来る。

河口からヤマメの生息する支流が近ければ、夏サクラが多い。サクラマスはもともと本流で産卵はしない。本流で産卵するのは鮭だ。ダムが出来て、その上の支流に行けなくなったサクラマスは気の毒にダム下の瀬で産卵をする。支流ごとにDNAを持っていて、先祖代々、子々孫々まで同じ支流に帰って産卵をする。河口から近いところに大きな支流がたくさんあれば夏サクラがたくさん帰って来るってことになるはず。6月1日に解禁のところもあるんじゃない?河口に近いところで釣るじゃない?あれってそうなんじゃないかな。

 と、ここまでは7月13日の惇也くんの見解で、このレポートを書き上げ、すでにKEISONに送っていたが掲載を止めていた。なぜなら夏サクラマスと呼んでいるこの魚がほんとにサクラマスなのか、1本だけキープして研究機関に提出したからである。そして22日に回答があった。


Subject:
サクラマスの解析(第一報)

Date: Sat, 22 Jul 2006 09:50:21 +0900 (JST)

サクラマス 雌

体重805g

肥満度1.86

性別・雌 卵径分布1.3-1.6mm

GSI(生殖腺重量体重比)0.53

内臓の状態 胃内は空。

幽門垂下部から腸部にかけて脂肪の蓄積が多い。

鱗相 下記

 雌のサクラマスでした。肥満度が1.86と大きく、腸部周辺に脂肪体の蓄積が認められることから、肉質部にも多くの脂肪分が蓄積しているものと思われます。

 鱗相は、内側に密な線が23本あり、その外側に間隔の広い線が20本ありました。このことからこの魚は、前半は河川に居り、後半は成長速度が早い環境、おそらく海洋に居たと思われます。

 気仙沼大川のデータによると、サクラマスでは月齢12ヶ月で鱗の線が1926本、月齢17ヶ月で2326形成されると言われております。これに当てはめると、この魚は12月に孵化したとして、それから11年半程度で、新しい環境への移動を完了したと考えられます。また、鱗の内側の線間隔が密な部分と外側の広い部分とが明瞭に分かれ、中間帯が殆ど見られない(1本あるかないか)ことから、ごく短期間で移動を準備・完了したと考えられます。この魚が海に降りたと仮定して、鱗の外側の線の間隔が広い部分には休止帯が見られないことから、この魚は海洋生活期中、摂餌がコンスタントに行われていたものと思われます。また、線の間隔が広い部分が約20本あることから、海洋滞在期間は約1年間と推測します。

 卵径およびGSIから、この雌は油球期から第一次卵黄球期のステージにあると考えられます。つまり、これから自分の躯の養分を取り込んで、卵を発育するステージにあると思われます。従って、この魚はこれから夏にかけて大きな移動をせずに、卵成熟を進行させるものと思われます。私が以前調べたデータからは、この時期にはまだ卵巣から分泌される性ホルモンの量が少ないはずです。また、この雌は、卵巣に残卵や過熟卵が認められないことから、処女雌であると考えられます。

 以上のことから、この魚は去年の冬から春にかけて、未成熟な状態で銀化変態を行い、ごく短期間で那珂川から海に移動し、約1年間海で滞在した後に、またごく短期間で川を遡上し、卵成熟のために滞泳していたものと思われます。卵黄蓄積にはこれから最低一ヶ月を要し、その後、さらに遡上してかなりの確率で今年産卵すると考えます。

 これから、追波と広瀬川で捕獲されたサクラマスの性状と比較を行ってみます。

 なにか、コメントや助言をいただければ幸いに存じます。

ね、夏サクラマス。12月に孵化したとして、1~1.5年を川で生活、約1年を海で生活、産卵まで釣った時点から4ヶ月。だいたい3年魚の計算になる訳だ。

もう対象外として忘れられている中流部にたくさん居るんだよ。チャンネルが多くあり、水質が良く、水量が安定して川幅が広く、川底に泥や砂が溜まらない区間。七夕の頃、梅雨後半に遡上に来て、そこで秋の産卵遡上の準備をするのさ。春サクラマスはもっともっと上流の同じような条件の場所で同じようにしている。夏サクラマス、雨が多くて水量があったので今年は格別に楽しむことが出来た。